オトナの秘密基地
彼の左手に指輪がないのは、さっきタイピングをした時にチェック済み。

とは言っても、結婚しても指輪をしない人かも知れないし、彼女がいる可能性もある。

ただ、こちらのマンションには家族向けの広い間取りもあるのに、このサイズの物件を所有しているということは、彼もおひとり様じゃないだろうか?

恋愛経験は少なくても、日々色々なお客様を見ている私は、その人がどのような立場で、何を求めているのか、なんとなくわかるようになっている。

これは一種の職業病なのかも知れない。

そして私はこの歳になってやっと、干物の自分を改めようと思い立った。


部屋を出て、駐車場へ向かう。

私も車で来ていることを確認した彼は、自分の車に乗って、私の車は駐車場に置いて欲しいとジェスチャーで伝えてきた。

頷くと、こっちだと案内される。


彼の愛車は、ランクルだった。

助手席のドアを開けてもらって乗り込むと、ちらっと見えた後部座席には、作業服とヘルメット、それに大きな封筒が置いてある。

いかにも、ゼネコンの人の車、という感じだった。
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