オトナの秘密基地
ダメだ、泣けてきた。

旦那様は戦死して、きっと女手ひとつで小さい子ども二人を育てたはずの和子さん。

もう、旦那様が戻ってこないことを知りながら、中田さんのお父さんを出産したのだろうか。

苦労して育てた子どもが、先に死んじゃうなんて。

だって、あんなに可愛かったんだよ?

小さな掌をとんとん、と合わせて、おねだりする姿。

私に抱っこをせがむ、甘えた声。

息子が大人になったって、我が子であることには変わりない。

一瞬でも、和子さんになったからだろうか。

和子さんの痛みや苦しみが、私の心にそのまま伝わってくるようだった。

それでも、遺影の和子さんは、本当に穏やかな表情を浮かべていて、さらに涙を誘う。

中田さんに気付かれないように涙を拭こうとしたけれど、もう無理だった。
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