ポンコツ王太子と結婚破棄したら、一途な騎士に溺愛されました
 こうしてこんなところにまでユフィーナについてきてくれたニナは、実はかなり鉄火な性格をしている。

 見掛けがおっとりと大人びているから余りそう見えないが、ユフィーナに害を為そうとするものは、やはりにこにこ笑いながらきれいに肩の関節を外したりしていたものだ。

 はっきり言って、ニナはユフィーナがゴーサインを出したなら、王太子の暗殺くらい「分かりましたわ」の一言で実行してしまうようなお人なのである。

(ああ……っあなた方! どうしてこのニナの恐ろしい空気を感じないの!? 鋭いのだか鈍いのだかどちらかに統一して頂戴! それだけ詳しく後宮の事情を知っているくせに、どうしてこんなにもあからさまな殺気の中でウフフオホホと笑っていられるのかしら!?)

 傍で見ているこっちが怖い。

 そんなニナの目の前で、尽きることなくユフィーナの陰口を叩きまくる彼女たちに、お願いだからもう勘弁して下さい、と祈るように思ったときだった。

「お前達、何をしている。王太子殿下の御前だぞ。控えろ」

 げ、と声に出さなかった自分を褒めてやりたい。

 この太い声は、王太子の側近である近衛騎士団長のものか。慌てて礼を取る侍女達に倣って頭を下げれば、くくっと笑う声がする。

「リンド、侍女というのはお喋りなものだよ。そう脅かしてやるな」

 ――どうやら王太子殿下は、ユフィーナ以外の女性には、実にお優しくあられるらしい。顔を上げよ、と言う声も柔らかく、渋々目を伏せたまま顔を上げれば、何やら奇妙な沈黙が落ちた。

「……お前。……そこの、金髪の娘」

(っ)

 この場で金の髪を持つのは、ユフィーナだけだ。

 まさかバレたのか、と血の気が引いたが、名指しされて無視をするわけにもいかない。何しろ相手は、この国の王太子だ。

 ニナが籠の中にさりげなく手を入れるのを横目に見ながら、いざとなったら全員気絶させて逃げるつもりで、ぐっと奥歯を噛んで王太子に眼を向ける。

(……あら。意外とまともな顔をしていらしたのね)

 随分久し振りに見る「夫」に、そんなことを思う。
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