ポンコツ王太子と結婚破棄したら、一途な騎士に溺愛されました
 明るい金茶色の髪、濃いブルーの瞳。

 甘い顔立ちは、物語に出てくる「王子様」そのもので、何だか笑える。

 いや、物語の主人公をこの王太子と愛妾と考えれば、これぞ王道。

 きっとその物語の中では、ユフィーナはヒロインの邪魔をする悪女と言った役回りを割り当てられるのだろう。

 ――まずい、想像したらますます笑えてきてしまった。

 どうにか真面目な顔を保ちながら改めて王太子を眺めてみると、すらりとした体躯はそれ程大きくないが、それは隣に立つ騎士団長が、見上げるほどの巨漢だからそう感じるのかもしれない。

 しかし、何故にそんな風に穴が空くほどにこちらを見るのか。その瞳に見慣れた嫌悪が浮かんでいないところを見ると、バレたわけではなさそうだが。

「お前……名は、何と言う? 何処の家の娘だ」

(セーフ! いえ、アウトかしら!?)

 咄嗟にがばりと頭を下げ、出来るだけ怯えた風に声を上げる。

「も……申し訳御座いません! わたくし、何か、粗相を……っどうか、お許し下さいませ!」

「………」

「……殿下。どうやら、あなたの方が侍女を怯えさせているようですが?」

 やかましい、と憮然とした声がして、頭を下げた視界の端に、騎士団長の大きな靴が入り込む。

「怯えることはない。お前が咎めを受けるようなことはないと約束しよう。顔を上げなさい」

 再びの命令に顔を上げ、その大きな体躯に似つかわしい武張った印象の厳つい顔をした騎士団長を見上げると、刃物傷でその中程で途切れた片眉が、ひょいと持ち上がる。

「これはまた……」

「リンド」

 どこか焦ったような王太子の呼びかけに、騎士団長の声に苦笑が滲む。

「殿下。そう慌てずとも、この侍女は王宮から逃げたりしませんよ」

 いえ、まさにたった今出て行こうとしているところなのですが。
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