ポンコツ王太子と結婚破棄したら、一途な騎士に溺愛されました
 しかし、にやりとした笑みを王太子に向けた騎士団長は、ユフィーナには打って変わって優しげな笑みを寄越して来た。

 ――何だろう。この騎士団長は見た目はちょっとゴツいが、如何にも街の女性にモテそうな感じで悪くない。酒場に行ったら、すぐに玄人の女性が寄っていきそうなタイプだが、かといって余り軽薄な感じもしない。

 どうしてこんな頭が気の毒な王太子に、こんなまともそうな騎士が仕えているんだろうか。不思議だ。というか、勿体ない。

 しかし、ユフィーナは続けて告げられた騎士団長の言葉に、思わず目を丸くした。

「仕事の途中なのだろう。それを洗濯場に運んだら、そうだな、青鷺の間まで茶を運んでくれ」

「………」

 恐る恐る、改めて「夫」に目を向ける。

 この流れと、こちらを見る王太子の瞳に浮かぶ、熱に浮かされたような色。

 狂おしい、と言えるようなその熱情。

 街で言い寄ってくる男達と同じその色に、ユフィーナは何の冗談だとその場に座り込みたくなった。

(もう、何なの……? バカバカしくって眩暈がするわ)

 力一杯、溜息を吐きそうになるのをどうにか噛み殺す。本当に一体何なんだ、この茶番以下の展開は。

 殿下。あなた、ミーア様一筋じゃなかったんですか?

 ニナは何とも言えない顔をし、侍女達はぎらぎらと目を光らせている。その視線に込められているのは好奇心二割、嫉妬八割と言ったところか。

 王太子の「お手つき」ともなれば、王宮に勤める侍女というのは基本的に貴族の娘だ。

 彼女達は自分が『王宮で勤め上げて素敵な嫁ぎ先を選び放題コース』から、『妾妃の座を射止めた後、後宮の一員として華麗に国の中枢に参入コース』に乗り換えることに何の躊躇いも持つことはないだろうが、同僚がそんな幸運を手にしたときに、諸手を挙げて祝うことが出来るようなココロの広さは持っていないようだ。その殺気混じりの視線が痛い。

(ああ、もう……)
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