ポンコツ王太子と結婚破棄したら、一途な騎士に溺愛されました
 その為ユフィーナに子を宿す機会などあるはずもなく、いずれ愛妾が男子を産めば、王太子はどんな手段を使ってでもその子を自分の跡継ぎにするだろうと言われている。

 まあ、今となってはあんな男に触れられなかった幸運に感謝している位だ。政略結婚とはそういうものだと幾ら頭では理解していても、尊敬出来る要素の欠片もない相手に触れられるのは、やっぱりちょっと遠慮したい。

 ユフィーナはこの国の王位継承権になど何の興味もないし、あんな男の子どもを欲しいなんて、一度も思ったことはない。

 どうせならもっと早くに愛妾と跡継ぎを作って、こんなことになる前にさっさと追い出して欲しかったが、それは言っても仕方あるまい。

(全く……そこまでお好きなら、周りの反対なんか押し切って、最初からミーア様を正室に据えられればよろしいのに)

 戦で疲弊し、負けて弱体化すれば更に扱いやすくなるだろう王国の、古い血を引く高貴な、そして無力な姫君。

 嫁いで一年にもなるのに、全く王太子に顧みられることのない、後宮のお邪魔虫。

 それが、この国でユフィーナが与えられた評価であり、国政に関わることなど端から認められていなかった。

 王太子はあからさまにユフィーナの存在を嫌悪し、口づけどころか指一本触れることなく、公式の場に出るときさえも愛妾を伴うため、ユフィーナは未だにこのルードの社交界にデビューもしていない。

 結婚式の際、ベール越しに大勢の貴族と挨拶したが、彼らの中にもユフィーナの素顔を知る者は殆どいないだろう。

 この国の貴婦人は、公の場に出る際は常にベールを被っているものらしく、ユフィーナも王宮で見掛ける女性陣が皆顔を隠しているのを見て、自国との文化の違いをしみじみ感じたものだ。

 貴族の中にはユフィーナに挨拶したいと言ってくる者もいたらしいが、王太子は彼女が貴族と交流を持つことを厭ったのか、ささやかなお茶会すら開くことを許されなかった。

 王太子にとってユフィーナは愛妾を守るための壁に過ぎず、ただ後宮の奥で大人しく暮らしていればいいだけの存在で、外部と交流する手段は全て断たれた。
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