ポンコツ王太子と結婚破棄したら、一途な騎士に溺愛されました
 しかし、多少小細工したところで、ユフィーナは三国一の美姫と讃えられるに相応しい美貌の持ち主であり、ニナもまた、しっとりとした落ち着いた雰囲気を持つ黒髪の美少女である。

 どうしたものかと頭を捻った結果、こそこそするよりはいっそ堂々としていた方が素性もバレないだろうと、くっきりと大人びた化粧を施し、まさに絶世の美女となったユフィーナは、やはり派手目の化粧で別人のように化けたニナを伴い、ドレスや宝飾品を売り払った金で購入した男物の服を着て賭場へと繰り出した。

 口笛と歓声に出迎えられ、世慣れた女性のように手を振り、カードやダイスで勝った半分で周囲に酒を振る舞う。

 そんなことを何度か繰り返す内に、「姐御」などという不本意な呼び名まで得てしまったが、取り敢えず流れのギャンブラーとして、街での立ち位置は得ることが出来た。

 不埒な真似をしてくるものを容赦なく叩きのめしたり、賭場で働く女の子が酔っぱらいに絡まれているのをこてんぱんに畳んで蹴り出したり、自警団の遊び慣れていない若者をカモにしたりと、王宮での憂さ晴らしをしつつ、街に流れてくる情報を旅人から手に入れる日々の中、祖国が圧倒的不利と思われていた戦況をひっくり返した。

 祖国が勝利を収めたことは、勿論嬉しい。その勝利が、かつて共に幸福な時間を過ごした大切なひと達がもたらしたものだと言うなら尚更だ。

 しかし、祖国が戦に勝利し、領土を広げ、相手国からの賠償を受けて以前よりも遙かに強大な力を得たなら、この国におけるユフィーナの立場というものは、かなり違ったものになる。

 今までは戦時下ということで最低限の交流しかなく、ユフィーナが心痛で後宮に籠もっているという触れ込みで、祖国からの使者にも面会することは許されなかったが、これからはそうはいかなくなるからだ。

 弱小国から人質として受け取った飾り物の正室ならば、幾ら粗略に扱っても問題はなかった。しかし、ルードと同等、或いはそれ以上の力を得たザカリス王国の、王族にも匹敵する権勢を誇る筆頭公爵家の姫君にそんな真似をしたらどうなるか。

 最悪、今度はザカリスとルードの間で戦が生じてもおかしくない。
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