東雲の支配者

「どうしたの？」

私がそう尋ねると、突然悠太は私の腕を掴み、体ごと腕の中に引き寄せた。
あまりに突然の出来事で、私は息をするのも忘れ、ただただ悠太の心臓の音に聞き入っていた。

「なんでお前はそうなんだよ。何がそうさせてる？ガキの頃からの付き合いなのに…。なのに、なんで俺にすら心を開いてくれなくなった？」

必死で問い掛ける悠太の言葉は、悠太自身の心臓の音にかき消され、私の耳に届く事はなかった。

「ドク、ドク、ドク…。」

「えっ？」

「悠太の音は、心地いいね。」

私がそう言うと、悠太ははっとして我に返る。

「ごめん。急に変な事して…。」

「いいよ。気にしない。」

悠太は私に背を向けると、足早に去って行った。

悠太の突然の行為に戸惑う反面、言葉では言い表す事の出来ない安心感にしばらく浸っていたいと思う自分がいた。
けれど素直じゃない私は、自分の胸に手を当てると、高鳴る鼓動を自力で静めるかのように、思考回路を整理するのだ。