東雲の支配者
そして私はまたいつものように何事もなかったかのような清々しい表情を作り、玄関のドアを開ける。
すると、しばらく口をきいてくれなかった母親が私を出迎える。

「おかえり。亜夕ちゃん、今月末パパが帰って来るって。」

母が浮かれているのは一目見てすぐにわかった。

「そう。良かったね。」

私はいつものように笑顔を作る。

「ほら、亜夕ちゃんもお掃除手伝って!早く早く!」

「はい、ママ。」

荒れ狂っていた母がまるで嘘のようだ。
散々人の事を振り回しておいて、なんて自分勝手な人なんだろう。

一瞬そう思うも、私はすぐに自分の身分に気が付く。
そうだった。
忘れてはいけない。
私は母のお人形。
母に対して感情を抱く事すら許されてはいないのだ。
甘えると突き離され、反発すると叩かれる。
母が私を欲している時だけ必要以上に抱きしめられ、鬱陶しい時は近寄る事すら許されない。
だから私は今日も偽りの笑顔を母のためだけに振り撒く。
母から生まれてきた以上、それが私の使命だ。

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