東雲の支配者
悠太は悔しいって言った。
私はなにも悔しい事なんてない。
誰にどんな酷い事をされても、怒りなんて湧いてはこない。
なぜなら、私を一番嫌いなのは他の誰でもない、私自身だから。
そんな私の事を他の誰かが好きになる訳ないでしょ?
だから、私は嫌われて当然。
私を嫌いな人を、私は受け入れる。

土曜日。
父が帰省するまであと2週間。
母は最近毎日機嫌がいい。

「亜夕ちゃん、コーヒー入れたよ。ケーキもあるし、おやつにしましょ。」

「はい、ママ。」

「ねえ、パパが帰って来たらどこ行く?いっぱいお出かけしようね。」

「そうだね。」

「温泉なんてどう?久々に一泊で。ちょっと遠出したいし。」

「それ、いいね。」

「大変、そうと決まれば早く予約しなくちゃ。」

母はまるで遠足に行く小さい子供のようにはしゃいでいた。
余程父の事が好きなんだろう。
母は尽くすタイプだから、父が家にいると身の回りの事を全てしてあげる。
父がソファーに寝転がっていると耳掃除をしてあげたり、お風呂の時は背中を流してあげたり、食事の時は魚の骨を取り除いてあげたり…。
私にはしてくれない事を、父には自ら進んでやるのだ。


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