東雲の支配者
「でも、わからないの。どうしたらいいのか、わからなくて不安なの。」
そう言って私はかぶっていた麦わら帽子のツバを指先で軽く握る。
すると突然エミリは私を強く抱きしめた。
「大丈夫。みんな始めはわからない。目で見た物を、素直に感じるの。その行為に理屈は通用しないから。亜夕なら出来る。」
その言葉を聞くと、私の体はまた少し身軽になったような気がした。
陽咲が来るまでの間、エミリは色んな事を教えてくれた。
「私の本当の母親はね、シングルマザーで働きづめで、とにかく忙しい人だった。私が体を壊して入院した時も、病院に来てくれるのはママじゃなくておばあちゃんだった。私のために働いていたのかもしれない。けど、私がいつも求めてるのはママだった。不安な時も、苦しい時も、ただ抱きしめてくれるだけで私はなにもかも忘れる事が出来た。それなのに…。私の願いは届く事はなかった。最後にママに会いたかった。会って抱きしめて欲しかった。愛してると言って欲しかった…。」
「エミリはママが大好きなんだ。」
「えっ?」
エミリは目をまん丸くして私を見つめる。