東雲の支配者
「私はママになにも求めなりはしないよ。私が何を叫んでも、何を望んでも、その声はママには届かない。」

そう。
いつだってそうなの。
どうやったってうまくいきっこない。
求めれば遠ざかり、気が付くと一人ぼっち。
あの日見た零れ桜は、無様な私そのものだった。
母に笑顔を見せる時は、自分の感情を殺す時。
舞い上がった瞬間死んで行く花弁そのもの。

「求める事を許してくれたエミリのママは、きっとエミリを生かすために一生懸命だったと思うよ。」

「…うん。ありがとう。」

夕方、陽咲は息を切らして私の元へやって来た。

「ただいま、亜夕。」

陽咲の笑顔が夕陽に滲むと、一瞬だけど、そこに悠太がいるような錯覚に陥った。

「悠太…。」

「えっ?」

「あっ、なんでもない。」

「行こうか。」

「はい。」

私達は小屋を後にした。

「あの…。」

「どうしたの?亜夕。」

「陽咲って、何者なの?普段なんの仕事をしてるの?」

「私は毎日デーテの元へ子供を案内する仕事をしている。けど、亜夕は特別だよ。こうして私が直々に街を案内する事なんて普通じゃない。」

「どうして私だけ…?」

「その答えを聞きたい?」

「…。やっぱりいい。」

「ははっ!」

陽咲は私をからかって遊んでいるに違いない。
いい大人が女子高生をからかってこんなに楽しそうに笑うなんて、悪趣味極まりない。

朝屋に帰ると、一階からなにやら騒がしい声が聞こえる。


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