東雲の支配者
しばらく露店をうろついていると、帽子屋のおじいさんに声をかけられる。

「お嬢さん、その帽子は随分痛んでいるね。新しいの一つどうですか?」

「えっ…」

私はかぶっていた麦わら帽子のツバを指でぎゅっと掴んだ。

「これなんかどうですか?」

商品を進めてくるおじいさんに向かって陽咲がこう言った。

「おじいさん、申し訳ないがこの娘はこの帽子を心底気に入っていてね。とても大事にしてるんだ。だから新しい帽子は必要ないよ。」

陽咲がそう言うと、おじいさんはニコッと笑ってこう言った。

「そうかい、帽子を大事にする人間に悪い人間はいない。お嬢さん、その帽子、手放すんじゃないぞ。」

私とおじいさんは握手を交わした。
なんだか嬉しかった。
いつもみんなにバカにされてばかりだった帽子だけど、長年大事にしてきた事に初めて誇りを感じた瞬間だった。

「そろそろ陽が暮れてきたね。夕焼けが綺麗に見える丘があるんだ。行ってみる?」

「うん。」

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