東雲の支配者
私は何かに絶望した。
そして母に対する怒りと哀しみで体は小刻みに震えている。

「亜夕ちゃん?」

その呼びかけにすら恐怖を感じ、私は目を見開き振り返る。

「コーヒー熱くなかった?大丈夫?」

優しく問いかけるデーテに私は膝先づいた。

「ごめんなさい、ごめんなさい。許して下さい。嫌だ、暗い所には行きたくない、行きたくないの…!」

泣き崩れる私を、デーテは優しく包み込んだ。

「こんな失敗、誰にでもよくある事なんだから気にしないの。大丈夫。コーヒーの汚れくらいすぐに落ちるから。」

この日を境に、私はふとした出来事がきっかけで過去の記憶が幻覚のように出て来るようになってしまった。

デーテに引き取られてから三日目の夕方。
それはとても突然で、泡沫の幸せのような幻覚だった。

きっかけは、私が庭で野花を摘んで持ち帰った事。

「デーテ、外に綺麗な花が咲いてたの。ほら、見て。」

「へえ、どれどれ?」

私がデーテに花を渡そうとした瞬間、花びらの間で小さな虫が動いていた。
その瞬間、また私は幻覚の世界に引き込まれる…。
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