東雲の支配者
「ママ、お花だよ。はいどーぞ。」

幼い頃の私が母に笑いかける。

「あら亜夕ちゃんありがと…きゃーっ!虫!」

私が摘んで来た花は、母の手によって床に叩きつけられた。
そして母は持っていた新聞で、花ごと虫を何度も何度も叩いた。
バラバラになった花びらは、私になにを訴えかけていたのだろう?
当時の私にはわからなかった。
いや、わからないふりをしていた。
今思えばわかっていたのだろう。
その証拠に、私はその時から美しい物イコール、儚く惨めな物だと思うようになった。


母は虫を殺した後、私に向かってこう言った。

「どうして花なんか摘んできたのよ!もう二度とこんな事しないで!しばらく外で反省しなさい!」

またいつものように母は私の頬を引っ張り、玄関から私を突き飛ばした。
私は玄関の外でしゃがみ込み泣いていた。
すると家の前を悠太と悠太のお母さんが通りかかった。
そのまま通り過ぎて行ったと思いきや…。

「ママ、亜夕菜ちゃんがまたママにいじめられてるよ。」

「そうね、可哀想に…。悠太、ゲーム持って亜夕菜ちゃんの所に行ってあげなさい。」

「いいの?やったー!じゃあ遊んで来るね!」

悠太は私に同情していた。
けど、それだけじゃなかった。
私と遊べる事を喜んでいた。
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