東雲の支配者
水穂という女性はステージに上がると淡々と話を始めた。

「今日は私が中学を卒業して間もない頃の話をしよう。母親は私が中学の頃から家を空ける事が増え、卒業する頃には月に一度くらいしか帰って来なくなった。そうなる前は毎日知らない男が家に入り浸っていたから、それに比べればいない方がましだと私は思った。中学を卒業してからは母と二人で住んでいたアパートは私だけの物になった。毎日遊び狂っていた私は、家に帰ると孤独との戦いだった。お金も十分に与えられず、万引きで何度も捕まった。まだ若くてバカだった私は、そのストレスを他人にぶつけるかのように、友人達と一緒に気に食わない奴がいたら手当り次第リンチした。大勢対一人だったけど、暴行するのはいつも私だけ。やられた方は血だらけのまま私の家に連れて行かれた。朝まで私の部屋で正座させて、明るくなってから家に帰す。私はその横で当たり前のように寝る。部屋にはガタガタ震えてすすり泣く少女の声が響いていた。そんな事を繰り返していたある日、警察が家に来て、私は連れて行かれた。母親は迎えにすら来なかった。その後母親と会ったのは一ヶ月後の事だった。母は私にこう言った。「生きてたってこんな事しか出来ないなら死んでくれた方が楽なんだけど。」母は一度も私の目を見てはくれなかった。だから私はこう言い返した。「頼むから殺してくれないかなぁ?」ってね。」

会場内は爆笑の渦だ。
私は気付いた。
この人達はこうしてみんなで笑う事で、傷を舐め合っている。
死にたくなるほど辛かった過去も、ただの笑い話に変えてしまえばすっきりするのだろう。
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