東雲の支配者
どうしたって過去を書き換える事など不可能なのだから。
そう思うと私の母に対する憎しみもなんだかバカバカしく思えてきた。

ステージから降りる水穂の肩を周りのみんなが優しく叩く。
みんな笑っている。
水穂も笑っている。
そして水穂は私と雨音の方に近付いて来る。

「次はあなたの番。」

水穂は私の肩を掴んでそう言った。
私はどうしていいかわからず雨音の顔を見ると、何も言わずコクンと頷いた。
私は突然の抜擢に動揺するも、水穂に背中を押され断る事が出来ず、渋々ステージに上がった。
会場にいる人全員が私を期待の眼差しで見ている。
何を話したらいいかわからず、私は黙って考えた。
一番辛かった事を、笑い飛ばして楽になりたい記憶を。
すると不思議な事に、私の緊張とは裏腹に次から次へと言葉が出てくる。

「あれは私が小学3年生の頃…。学校から帰ると母がリビングで号泣していた。私がどうしたのと聞くと、突然母が持っていたコップを私に向かって投げてきた。コップは私の口に当たり、唇から大量に出血した。それを見た母は、「床が汚れるから手で抑えなさいよ。」と言った。私が口を抑えたまま部屋に戻ろうとすると、母が突然頭を手加減なく叩いた。「だから床が汚れるって何回言わせるの⁈血が止まるまでそこから動くな!」言われた通りその場に立ち尽くすも、出血は止まる事はなく、案の定床に血がポタリと落ちた。
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