杏子の墓(ラジオドラマ)
”白衣を着た若林医師が駆け込んでくる。杏子のベッドで
ひざまずき目をつむって眠っている杏子の手をとり必死で、

『悲観的になってはいけない!君は必ず助かる。すぐ元気に
なって退院できるから頑張るんだ杏子!』

そこで杏子は目を開けて笑いながら思い切り抱きつく。
唖然としている若林医師。"

という夢だ。楽しそうな字で日記に書かれていた。この頃か?
杏子が、自分が抱えるとげの正体を本能的に自覚し始めたのは。

その後二人とも多忙になった。12月に入って出発日が確定し
手紙を出したが、その返事もきちんと書かれていた。教育実習
も卒論も終了し、後は登町小学校の採用通知を待つだけだと書

いてあった。・・・・・・・何故出さなかったんだろう?
日記を見てみた」

(杏子のN)「12月になるとひょっとしたらと思っていた
ところへ、若林さんからの手紙が届いていました。私には
直感で分かるのです。えいって指を鳴らすとポストに手紙が
入ってて輝いていたんですよ」

(若林のN)「その1週間後」

(杏子のN)「もう手紙は出さないことに決めました。
若林さんは返事を期待していない。住所も不安定。3年間も
旅に出るなんてもってのほかだわ。さっさと忘れて私も頑張ろう」

(若林のN)「その後の日記は最後の真新しいノートになっていた。
杏子は心機一転、新生活の戦いを開始したのだ」
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