杏子の墓(ラジオドラマ)
(杏子のN)「今回は長引きそうだ。あの苦しい検査が続くのか
と思うと気が重くなる。子ども達はどうしてるのかな?」
遠くで子ども達の声。
(子ども達)「きょうこせんせーい!」

(杏子のN)「今日転院になった。検査が前の時より厳しい。
医師の対応も微妙に違う。もう、助からないかも?」

遠くで父と母の声。婦長の声。
(婦長)「今日はお元気そうですよ」
(父)「そりゃどうも。ほんまじゃ。ははは、元気そうじゃ。かあさん果物」
(母)「起きとるんね杏子?ハア顔色がようなって。これ食べないけんよ」

(杏子)「ありがとう、おかあさん」
紙包みを開ける音。
(父)「今日は元気そうじゃの、杏子」

(杏子のN)「父の表情がさえない。何か私に隠している。
父は何かを知っている。気丈に振舞う父と母。見舞いに来ても
まともに顔を見れない。必死で笑顔を作っている」

点滴の音が単調に響き続ける。
杏子の寝息。
心臓の鼓動が徐々に高まる。
するどい衝撃音。
(杏子)「キャッ!」

跳ね起きる音。
(杏子)「(大きな息遣い)ふう、ふう」

(杏子のN)「薬で今までの発作が薄められてその分毎日ズキンと来る。
とても背中が痛く背骨が熱い。助けて若林さん。一人で死ぬのがとても怖い」
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