兄妹芸人(仮)
「辞めるときみんなに止められたりしたから、俺が飽きたからってことにして明里もいっしょに辞めたんだ。
劇団に入る条件が二人一緒にってことだったから。」
あたしはずるいんだ。
慎太郎に全部任せて、自分は殻に閉じこもって。
「その時に明里は人の目とかが怖くなっちゃったんだよね。
だから時間がたった今でも人前に出るときは緊張しちゃう。」
頭の上で髪をなでる手があまりにも優しくて、つい素直に頷いてしまう。
あれから3年もたっているのに、立ち直れていない自分が情けない。
「じゃあ、なんで今回の文化祭とか祭りをやる気になったの?そんなにトラウマなのに。」
「それは……慎太郎が、やりたいって言ったから…」
たぶん慎太郎は、あたしが逃げ出さなかったらあのまま劇団に居続けたと思うんだ。
あの頃のあたしの目にはお芝居や歌、踊りを全力で楽しむ兄の姿が映っていた。
飽き性でいつもすぐに放り出す慎太郎があんなに真剣に、全力なのを見るのは初めてだった。
あたしが、慎太郎のやりたいことの邪魔をしたんだ。
「もう、自分のせいで慎太郎のやりたいこと、つぶしたくないって思った、のかな…よくわかんないけど、やるって言ってた。」