兄妹芸人(仮)
ずっと今まで意識しないようにしてきた。
あの舞台をなかったことにしたかった。
でもやっぱり心の中から消えてくれなくて、いくら表面では慎太郎のこと貶したりしても、心の中では慎太郎のやりたいことをやらしてあげたいって無意識に考えて頷いてる。
慎太郎の真剣な目は、あの日ステージの後にあたしに「大丈夫だよ」って言った目と同じで、どうしようもなくあたしを揺さぶる。
文化祭のことだって、最初は人前に立つのなんか絶対に無理だって思って、サポートに徹しようと思った。
でも慎太郎のやりたいことならって、結局は頷いたんだ。
「そうだったんだ…明里くん、がんばったんだね。」
二階堂先輩のやわらかい声に顔を上げると、にっこり優しく笑ってくれた。
「トラウマって、そう簡単に克服できるものじゃないよ?時間が解決してくれるものでもない。
明里くんは自分の力でトラウマに立ち向かったんだね。」
「ち、違います。慎太郎が…」
「明里、俺劇団辞めたことなんとも思ってないよ。」