兄妹芸人(仮)

こんな真剣な顔の慎太郎なんてなかなか見られない。


それこそ、珍しいこともあるもんだと言いたいくらいだ。




「明里はさ、俺の我が儘の被害者なんだよね。」


まぁ、そうだな。

いや、そうじゃないよ。



「本当は、ステージみたいな人前で派手なことするのが嫌だってちゃんと知ってる。」



うん。嫌いだわな。

いや、嫌いなんじゃなくて怖いんだ。




「俺のために無理してるのかなって、思ったことも何回もある。」


無理は…別にしてないけど。




「でも、それでも俺は明里とお笑いがやりたいと思ったんだよ。」


「…うん。」



「今まで練習してきた通りにやれば、大丈夫だよ。」


「うん。」



「それに、コンビなんだから、俺にも迷惑かけて良いんだからね!」


「うん。」



「あと、…」

「…もう、いいよ。大丈夫だから。
無理に励ましたりしなくていい。第一、お前人のこと励ますなんて慣れてないだろ。」



「う、…でも」


「まぁ、慣れないことさせてんのはあたしだろって話だよな。悪い。」



「いや、そういうんじゃなくて…」




「ありがとう。慎太郎。もう、大丈夫。あんたが大丈夫って言ってるんだもん、大丈夫なんだよ。」




慎太郎が慣れないことしてまで、今日の舞台を大事にしているってことはわかってる。



辞めさせようと思えば辞めさせられた。

やらないと言おうと思えばいくらでも言えた。



それでも慎太郎が、あたしが、2人で今日の舞台に臨もうとしている事実。

それは、あたしが慎太郎と一緒にがんばろうと思った結果だ。




ステージに立つのは怖いし、正直逃げだしたいけど、慎太郎のために頑張るんだ。



それなら、今更これっぽっちの緊張なんかに負けてられないだろ。





「楽しいステージにするって言ったからには、目一杯楽しまないとな。」






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