兄妹芸人(仮)
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みんな一度は聞いたことがあるだろう、漫才といえばあの曲。
その音と共にステージ中央のマイクへと元気に駆け寄ったあたし。
「うぎゃ!」
「…っ はいどーもー!ちりめんじゃこですよろしくお願いしまーす!!」
マニュアル通りのあいさつをして、台本では次は慎太郎のセリフ。
………?
…どうして慎太郎の声が聞こえない?
…どうして隣にあるはずの存在が感じられない?
…どうしてお客さんはステージ下手を見て笑っている?
…あれ?最初に聞こえたうぎゃってなんの音だ?
恐る恐るそっちを振り向くと…
慎太郎が転がっていましたとさ☆
「はぁっ?!」
なんでそうなった?!
マイクにたどり着くまでに何も障害物なんてなかっただろうが!
てかここステージの上なのに「はぁっ?!」とか言っちゃったよあたしどうしてくれる!!
やべぇ完全にパニックだ頭ん中真っ白。
とりあえず続けなきゃだけどどうすればいい?
あそこのポンコツを連れてくればなんとかなるか?
どうしよう。
完全に台本は頭から飛んだ。
もうなにも考えられない。
いつかの記憶が蘇りそうになる。
やばい、また、失敗……
「あ、明里ちゃーん…」
真っ白になり固まりかけたあたしの耳に届いた情けない声。
復活した思考が叫ぶ。
もう!!…なるようになれ!
当たって砕けろこのヤロー!!
「えー、少々お待ちいただいてもよろしいでしょうか?悲しいことにあそこで転がってるアホがあたしの相方なもので。」
口から勝手に出てきた言葉たち。
究極に笑顔を作る顔の筋肉。
場をつなげ。
目を恐れるな。
あいつが大丈夫って言ったんだから、絶対大丈夫!