抱いた女と犯した男【完】
私が何をするつもりでここに来たのか、わかっていたんだ。
わかっていて、それでいて家に招き入れたんだ。
だからカレーを作って、そうめんを食べたんだ。
わけもなく涙が目から溢れ出し、頬を伝って灰色の絨毯にシミを作った。
垣之内さんは黙って笑うだけで、何も言わない。
「……ごめん、なさい……っ」
「……うん」
「……あなたは悪くない……のに、」
「全部俺のせいだよ」
いつの間にか、彼の一人称は「僕」から「俺」に変わっていた。
垣之内さんはやっぱり寂しそうに笑ったまま、ゆっくりと不器用な手つきで私を抱きしめる。
――ああ、彼の腕の中はこんなにも温かいのに、……私は、――ああ。
「ハナちゃん、カレーありがとう」
「……」
「あのいものスライス、……ハナちゃんって何気器用だよね」
「……ごめ、なさい」
涙は止まらない。
彼は悪くない。分かっている。
じゃあやめればいいじゃないか。
――そうもいかない。