抱いた女と犯した男【完】
「……ハナちゃん、本当ごめん」
「……」
「……あと、ありがとう」
「……」
何に対して謝っているのだろうか。
何に対してのお礼なのだろうか。
妹に? 私に? 家族に?
汗ばむ手で、包丁を握り締めたまま彼へ一歩ずつ歩み寄る。
垣之内さんは微動だにせず、やはり悲しげな表情を浮かべるだけだった。
――タイムリミットが、きたようだった。
「……ハナちゃん、生きてね」
垣之内さんに言われ、涙は止めどなく溢れ出す。
「……ぁっ」
包丁はするりと私の手から抜け落ちて、床に転がった。
何かの糸が切れたように、私もその場に崩れるように座り込む。
顔を両手で覆って泣いた。
どうすればいいのだろうか。
だって気づいてしまった。
――私にはできない。