抱いた女と犯した男【完】
好きだと思った。人懐こい笑顔が。垣之内さんが。
彼は黙ったまま、私の背をさすることも、抱きしめることもしなかった。
多分、予想だけれども、きっとさっきと同じ場所で、さっきと同じように困ったように笑っているのだろう。
ミーン、ミーン、ミーン――
――ああ、蝉、煩い。
どうすればいいのだろう。
気づいてしまった。自覚してしまった。
私にはできないのだ。
だって彼への気持ちを。
戻れない。もう。
だってきっとこれは、
紛れもなく。
――彼への恋心だ。