抱いた女と犯した男【完】
丁寧に靴を揃えて、リビング、と呼ぶには狭すぎる部屋に足を踏み入れた。
「……おじゃまします」
「うん。適当に座ってて。……あー、……ごめん、なんもないや。麦茶でいい?」
「……なんでも大丈夫、です」
失礼かなとも思ったけれど、キョロキョロ見回した垣之内さんの部屋は、予想に反して片付いていた。というか、ものがあまりない。
だけど決して綺麗だという意味ではなく、よく見れば部屋の隅には埃がたまっているし、古いアパートだからしょうがないのだろうけど部屋の壁にはひびも入っていて、少し不気味に感じた。
さっぱりした、どこかさみしい部屋だ。
冷静に観察していれば、いつの間にか彼は戻ってきていて、小さなテーブルの前にあぐらをかいて座った。
「……狭いし申し訳ないんだけど、座れば?」
私は黙って頷き、彼とテーブルを挟んで向かいの席に座る。
麦茶が目の前に置かれていたが、とてもじゃないけど飲む気はしない。
せっかく淹れてくれたのに、申し訳ないなあ。
「……僕の予想が正しければ、なんだけど」
暫くの間二人を支配していた沈黙を破ったのは、垣之内さんの方だった。