抱いた女と犯した男【完】
「水嶋さん、だよね?」
上目遣いで、どこか探るような、それでいて純な瞳。
――ああ、よかった。彼は私を知っていた。
少しホッとしながら、緊張したまま小さく頷きカバンを足元に置いた。
「水嶋羽和です」
「……そっか、ハナちゃんね」
垣之内さんは噛みしめるようにゆっくりと私の名前を繰り返して、人懐こく笑う。
……ハナちゃんって呼ばれた。なんだか変な感じ。
「……ええと、知ってると思うけど、僕の名前は垣之内まさきです」
「……知ってます」
「だよね」
「……」
「……」
再び訪れた沈黙は、私を困惑させた。
毎日、カレンダーの日付にバツの印をつけてきた、間違えるはずがない。忘れられないあの日から、ちょうど3年。
彼は私より2歳年上のはずだから、今は23歳か。
随分とイメージと違う彼の印象に、戸惑いを隠せない。もっと嫌な人間だと思っていたから、拍子抜けしてしまう。
「……あのさ、……僕、お昼、まだなんだよね」
「……」
「よかったらなんだけど、ハナちゃんも一緒に食べない?」
どうしよう、と声には出さずに悩み、迷った挙句、
「いただきます」
俯き呟いた。