抱いた女と犯した男【完】
彼はにっこりと微笑むと、立ち上がりキッチンへ向かう。
――私も、何か手伝うべきだろうか。
少しの間迷って、彼の背中を追いかけた。
「……手伝います」
「まじ? サンキュ」
明るく笑い、冷蔵庫を漁る垣之内さん。
……なんだか、調子が狂うな。
「……て、うわー、……ごめん。なんもないんだった」
それから彼は申し訳なさそうに肩を竦めて言い、冷蔵庫の扉を閉めた。
リビングと同じで、キッチンには驚く程何もない。ゴミ箱には、コンビニ弁当のゴミだけが目立つ。
きちんと栄養のあるものを食べているのだろうか?
なんて、私が心配する義理じゃないか。
どうすっかなー……。
なんてぼんやりと言い眉を顰める彼の隣に無言で並び、冷蔵庫を開ければ、にんじん、じゃがいも、玉ねぎがちょっとと……。賞味期限が数日過ぎたカレーのルー。
顔を上げれば、不思議そうな垣之内さんと目があって、少し狼狽えながらも、それを悟られないように軽く咳払いした。
「……カレー、作ろうか?」
お肉はないけど、大した問題ではないだろう。