抱いた女と犯した男【完】
キョトンとして瞬きを繰り返す垣之内さんが口を開くのに、数秒の間があった。
余計な申し出だったのかもしれない。と、ちょっと反省したけれど、一度口にした言葉はもちろんもう戻ってきてはくれない。
「え、ハナちゃん料理できるの?」
「……え、あ、普段はしないけど、カレーくらいなら」
「へえ!」
彼は意外だとも言わんばかりに大きく頷く。少し嬉しそうに。……なんで、そんな顔するのだろう。
「すげえ。……じゃあ、お願いします」
得意の人懐こい笑顔を受けて、私は頷く。……その笑顔が、痛い。
腕まくりをして、手を洗剤で丁寧に洗った。
「まな板と包丁、ある?」
「ん、待って」
垣之内さんは水道の下に備え付けられている戸棚を開けて、何やらガサゴソと探している。
本当にもう、数ヶ月キッチンは使っていないみたいだった。
出てきたまな板と包丁も埃だらけで絶句したあと、とりあえずそれらは垣之内さんに丁寧に洗わせる。新しいスポンジがあってよかった。
「……ええと、で。ハナちゃん」
「はい」
「玉ねぎって微塵切り?」
首を傾げる彼と顔を見合わせて、私も同じように首を傾げてみせる。