抱いた女と犯した男【完】
「……ごめんなさい」
「いや、大丈夫大丈夫。楽しかったし」
からりと笑ってみせる垣之内さんに、自然と私の頬も緩みそうになった。
――楽しかった。のか。
素直に気持ちを言葉にできる彼をすごいと思う反面、言いようのない罪悪感に苛まれる。
「しょうがない。……そうめんにしよう」
「……はい」
「あ、ハナちゃんは座っててね」
からかうように笑う垣之内さんに頷いて、大人しくテーブルの前で待つ。
テレビをつけていいよ、と言われたけれど、遠慮してじっと待っていた。
しばらくもしないうちに、ざるに盛られたそうめんが涼しさを連れてやってくる。
垣之内さんと向かい合って座って、手を合わせた。
「……いただきます」
部屋の窓際に吊らされた風鈴が、体を揺らす。
二人、何を話すこともなく黙ってそうめんをすすった。
ずずず、と、その音だけが部屋に響く。