抱いた女と犯した男【完】
やがて、ざるの上の麺はなくなり、それに比例して私のお腹は膨れていった。
もともとそんなにお腹は空いていないと思っていたけれど、夏に食べるそうめんは格別だ。食欲をそそられた。
「……やっぱ、夏だから……スイカ、食べたいよね」
「そうですね」
ミーン、ミーン、ミーン――
ああ、蝉、煩い。
開けっ放しにされた窓から入ってきたハエが、電気に止まり、机に、最後に垣之内さんの腕に止まり、出て行った。
「ふふ……」
漏れた笑い声は、自然とだ。
そうすれば垣之内さんは一瞬驚いたように私を見て、嬉しそうに笑う。
「初めて笑った」
「……」
「……」
「……私だって笑いますよ、そりゃあ」
不機嫌に呟けば、彼はまた得意の人懐こい笑顔を私に向けたから、意味もなく苦しくなった。
今だけはこの狭いアパートに、優しい時間が流れている。