兎の方向⇄
会社
頼輝が帰って一時間後ー…
「ただいま帰りました」
「あ、お帰りなさい先生」
達樹が帰って来た。
カルテから顔を上げ、微笑んだ兎佐美を見て達樹は優しく笑う。
「すいませんでした、1人で大変だったでしょう?」
兎佐美の手元のカルテを見て、少し心配そうに言う。
「いえ、私は大丈夫です。先生こそお1人で大丈夫でしたか…?」
「はい、大丈夫ですよ。心配してくれてありがとうございます」
ニコッと笑った達樹に兎佐美は安心したような表情を浮かべる。
それからデスクのメモ用紙を見ながら言う。
「あ、先生。さっき頼輝さんがいらして、先生に伝言を伝えて欲しいと……」
「兄さんが…?……ここに来たんですか……?」
「はい」
達樹は怪訝そうな顔をして、兎佐美に伝言を言うように促す。
「えっと、会社に来て欲しい、との事ですが……会社って一体どこのでしょう…?」
「……兄さんの会社ですよ。兄は会社の社長をしているので」
「そ、そうだったんですか!?」
「はい………」
兎佐美が何か失礼な事をしていないか記憶を辿っていると、
「仕方ありませんね……兎佐美さん、準備して下さい」
「はい…………はい…?」
突然の達樹の言葉に兎佐美の思考回路は急停止する。
「兎佐美さんも行きますよ。ここに1人で置いてはいけないでしょう?」
「え、あ…………」
達樹は兎佐美のカーディガンを取り、有無を言わせずに出て行く。
「あ、ちょっ、待って下さい先生っ!!」
仕方なく兎佐美は達樹と一緒に頼輝の会社に行く事になってしまった。