兎の方向⇄
「大きい会社ですね……」
頼輝の会社の前に来た兎佐美は、会社を見上げて息を吐いた。
「何してるんですか兎佐美さん。早く行きますよ」
「あ、はいっ」
慣れた様に会社に入る達樹に少し違和感を感じながらも、兎佐美は達樹の後に続いた。
いや、感じた違和感はそれだけじゃない。
いつもよりも少し強引な感じがする。
さっきの病院の時もそうだったが、何か変。
少しの違和感を感じながら会社の自動ドアを抜ける。
すぐ目の前に見えたのは、すごく豪華なエントランス。
「お帰りなさい、副社長」
受付嬢が笑顔で言った言葉に、兎佐美は驚いた様に達樹を見る。
「先生副社長だったんですか…!?」
「言ってませんでしたか?」
「き、聞いてないです……」
少し俯きぎみに言った兎佐美を見て、困った様に微笑んだ達樹はいつもの達樹だった。
「すいません……。詳しい事はまた後でキチンと話しますから……。ひとまず行きましょう」
そう言って達樹は兎佐美を促し、オフィスの中に入って行った。