兎の方向⇄
「あ、お久しぶりです副社長」
オフィスに入り、一番始めに声を掛けてきたのは眼鏡を掛けた知的な感じの女性だった。
兎佐美は達樹の後ろに隠れる様に立っている。
「お久しぶりです」
「あら…その子は誰ですか?」
女性は兎佐美を見て達樹に問う。
「彼女は私の補佐です」
「はっ、初めまして……星蘭兎佐美と申しますっ…!!」
「初めまして。私は秘書の久遠紫苑。よろしくね」
二コッと笑った紫苑は、また達樹に視線を戻す。
今度は締まりのない、ニヤニヤとした笑みを浮かべて。
「……何か言いたげですね久遠さん?」
「何でも無いですわ。社長なら社長室にいるのでどうぞ」
社長室に紫苑が案内しようとした時、タイミング良く社長室のドアが開いて中から頼輝が出てきた。
兎佐美を見て驚いた様な顔を浮かべ、こちらに歩み寄ってくる。
「兎佐美さん……!?…どうしてここに……」
「私が連れて来たからです。それより社長、お話とは何でしょうか?」
達樹は笑顔で言い、頼輝は仕方なさそうな表情をして紫苑に目を向けた。
「すいません久遠さん、お茶を用意して貰えないでしょうか?」
「はい、かしこまりました」
「達樹と兎佐美さんは先に社長室に入ってて下さい」
頼輝の言葉を聞くや否や、達樹は早々に社長室に入った。
兎佐美も達樹の後に続いて入って行く。
この後、兎佐美はさっきの違和感の正体を知る事になる。