兎の方向⇄

「俺等はもう帰るぞ……」


そう言って立ち上がる達樹。
兎佐美はまだ何かを考えているのか、達樹が立ち上がった事に気付いていない。


「……兎佐美さん、もしかして達樹の素知らなかったんですか…?」

「え……あ、はい…」


頼輝の言葉に我に返った兎佐美は顔を上げて頷く。


「……すいません、強引な弟で……」

「そんな…頼輝さんが謝る事じゃ……」

「飲み会……嫌だったら素直に言っていいんですよ?」


自分を心配してくれてる頼輝に、兎佐美は優しく微笑んだ。


「お優しいんですね、頼輝さんは」

「っ……!!///」


兎佐美の笑顔に頼輝は頬を赤く染めた。
が、兎佐美がそれに気付く訳もなく。


「大丈夫ですよ。ご心配なさらず」

「な、ならいいんですが……//」

「兎佐美…早く帰るぞ……」

「わっ…!?」


達樹に突然腕を掴まれ、社長室の外に出される。


「…兄貴…兎佐美はあげねぇから……」

「………………」


社長室のドアを閉める直前、達樹は頼輝に向かってそう言った。

オフィスを珍しそうに見渡している兎佐美の下へ行き、達樹は笑みを浮かべた。


「さ、帰りましょうか兎佐美さん?」


でもその笑顔は優しい笑顔じゃなくて。
黒い笑顔だった。

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