兎の方向⇄


「…疲れた………」


動物病院に帰って来た達樹は、真っ先にソファに座る。
後から入った兎佐美は気まずそうに自分の椅子にカーディガンを掛ける。


「……なぁ……」

「はっ、はいっ?」


突然呼ばれた兎佐美はなるべく平常心を保とうとしているのが傍目からでも分かる。
達樹はそんな兎佐美に気付いたのか気付いてないのか、言葉を続ける。


「…これ、誰が飲んだ……?」


ソファの目の前の机の上に置きっぱなしになっていたカップを見て聞く。
それは、昼間に頼輝に出したコーヒーのカップだ。
兎佐美が片付け忘れた物。


「あ、それは昼間頼輝さんにコーヒーをお出しした時のです…」

「兄貴が飲んだのか……?」

「はい……それがどうかしましたか?」


不思議そうな表情を浮かべる兎佐美。
達樹は少し不機嫌そうになり、こんな事を言いだした。


「……兎佐美………」

「な、何でしょう……?」

「コーヒー作れ……今すぐだ」

「え……い、今すぐですか……?」

「そう……今すぐ…」

「あ、わ、分かりました……」


仕方なく兎佐美は急いでコーヒーを作り出した。

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