兎の方向⇄
「先……生……?」
その人が、達樹にそっくりだったからだ。
でも、達樹は今はまだ定期検診のはず。
兎佐美はしゃがみ込んだままその人を見つめる。
「……何か勘違いしているようですね」
その人は苦笑いを浮かべ、兎佐美の方に手を差し出す。
兎佐美は一瞬迷った様に目を泳がせ、恐る恐るその人の手を握る。
フワッと体が浮く感覚がしたと思うと、その人と目線が近付いた。
「俺は湊羽頼輝です。達樹は俺の弟です」
ニコッと笑い、頼輝は兎佐美の手を握ったまま言う。
「しっ、失礼しましたっ!!」
兎佐美は勢い良く頭を下げる。
知らなかったとはいえ、頼輝を達樹と間違えたのは失礼だと思ったからだ。
「頭を上げて下さい、兎佐美さん!」
「え………どうして私の名前を……?」
頼輝とは初めて会ったはずなのに、自分の名前を呼ばれた兎佐美は驚いて顔を上げる。
「達樹から良くお話を伺うので」
「先生が私の話を……?」