兎の方向⇄
頼輝Sid.
初めて見た瞬間、可愛いって素直に思った。
大きな瞳に映る自分の顔。
その瞳にいつも達樹が映っていると思うと正直、嫉妬もする。
俺はまさか、俗に言う
一目惚れ
をしてしまったのか。
「…コーヒー……お飲みになられませんか?」
少し遠慮がちに言った彼女を、またさらに可愛いと思う。
「コーヒー…ですか?」
「はい。さっきのお詫び…って訳じゃありませんが、コーヒーだけは先生に誉められるんです」
彼女の言葉に、俺はすごく驚かされた。
あの達樹が彼女のコーヒーを誉めた。
その事実は、俺を彼女にさらに引き込ませた。
「へぇ……あの達樹が…………」
「そ、それがどうかしましたか……?」
不安そうに聞いてくる彼女。
「いえ、何でもありませんよ。それじゃあ、一杯お願いしてもよろしいですか?」
俺が微笑んで言うと、彼女も微笑み返した。
それだけで嬉しいと感じてしまう。
彼女の笑顔も、全部。
達樹じゃなくて俺に向けて欲しい。
本気でそう思った。