兎の方向⇄
「……それは良かったです」
頼輝はハヤテを見ながら言い、コーヒーのカップを空にした。
「兎佐美さん、達樹に伝言をお願いしてもよろしいですか?」
「あ、はい。いいですよ」
ハヤテを下ろし、メモ用紙とペンを取り出す。
「今日中に会社に来てくれ、と伝えて下さい」
「分かりました。伝えて置きますね」
メモ用紙に走り書きをした兎佐美は、そのメモ用紙を自分のデスクの上に置く。
「すみません、もう少し話していたいのですが、ちょっと時間がないので今日はこれで帰りますね」
「いえ、こちらこそ引き止めてしまって……」
急ぐ頼輝を見て、兎佐美は申し訳なさそうな顔をする。
「そんな事ありませんよ」
ニコッと優しく兎佐美に笑いかけ、ドアを開ける。
「……あ、兎佐美さん」
ドアの外に出た頼輝は、何かを思い出したように振り向いた。
「はい?」
「コーヒー、美味しかったです。また作って下さいね」
「!!!……はいっ!!」
嬉しそうに頷いた兎佐美を見て、頼輝は微笑みを浮かべた。
「それでは、また」
そう言って、ハヤテを連れて頼輝は動物病院を後にした。