ARCADIA
◆序章
はじまり
「何かが足りない」
高宮 由愛(たかみや ゆめ)はそう呟いた。
由愛は聖真理亜女子学園高校に通う高校二年生、十七歳。
ここの学園は今時珍しく完全寮制がとられており、外出にも許可が必要で、その時代錯誤さに、生徒たちも文句を言いつつ暮らしている。
聖真理亜の生徒たちの多くは、男子のいない「もの足りなさ」を感じているのだが、由愛が感じているのはそういうものではなかった。
これは今日に限ったことではない。どうも最近は何かがしっくりこないのだ。何をしていても、何か自分に欠けているような気がしてならない。それがなんだかわからないけれど――。
何事もなく時を過ごしている自分が、無性に嫌になるときがあった。
そしてさらに、最近由愛は誰かの視線を背中に感じるようになっていた。しかしいつも決まって振り向くと、誰の姿も見えないのだ。
由愛はあまり物事にこだわらない主義なのだが、そう何度も続くと、さすがに気持ちのいいものではない。
確かに由愛は昔から人ならざるものを見る機会が多かった。だから今回も、そういう類のものだと由愛は思っていたのだが――。
『彼』に出会ったのは、そんな頃。
街にジングルベルが鳴り響く時期だった。
高宮 由愛(たかみや ゆめ)はそう呟いた。
由愛は聖真理亜女子学園高校に通う高校二年生、十七歳。
ここの学園は今時珍しく完全寮制がとられており、外出にも許可が必要で、その時代錯誤さに、生徒たちも文句を言いつつ暮らしている。
聖真理亜の生徒たちの多くは、男子のいない「もの足りなさ」を感じているのだが、由愛が感じているのはそういうものではなかった。
これは今日に限ったことではない。どうも最近は何かがしっくりこないのだ。何をしていても、何か自分に欠けているような気がしてならない。それがなんだかわからないけれど――。
何事もなく時を過ごしている自分が、無性に嫌になるときがあった。
そしてさらに、最近由愛は誰かの視線を背中に感じるようになっていた。しかしいつも決まって振り向くと、誰の姿も見えないのだ。
由愛はあまり物事にこだわらない主義なのだが、そう何度も続くと、さすがに気持ちのいいものではない。
確かに由愛は昔から人ならざるものを見る機会が多かった。だから今回も、そういう類のものだと由愛は思っていたのだが――。
『彼』に出会ったのは、そんな頃。
街にジングルベルが鳴り響く時期だった。
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