ARCADIA
 由愛には意味が分からなかったが、キエラにはわかったようだった。悔しそうに唇を震わせる。
  「退け、キエラ」
 なおも男は冷たく言い放つ。

 キエラは鬼のような形相で男を睨みつける。
  「おのれっ……!今日のところは退くが、私は諦めはせぬ!――お前の力は完全ではないはず。必ずその娘を取り戻し、レスマドリアン様のもとにお連れしてみせる!」
 掃き捨てるように言うとキエラは右手を宙に浮かせた、彼女の回りに一陣の風が舞いあがる。――次の瞬間、それまでそこにあったはずのギリシア神殿風の柱も、キエラの姿も消えうせていた。

 由愛の周りに残されたのは、見慣れた公園の雑木林。
 そして、誰かの温かいぬくもり――。


 やっとのことで顔を上げると、そのぬくもりの主と目が合った。
 その顔を見て由愛は驚きを隠せなかった。
 だってそれは、先日家の前にいた『あの男』だったのだから。
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