【短編】意地っ張りなキミに。
それから姉貴は、ゆっくりと昨日の出来事を話し始めた。
「あたし、一昨日から一泊二日で友達と温泉旅行に行ってたの。
それが、たまたま沙羅ちゃんの引越し先の近くで。
確か、夕方頃だったかな?
旅館を出て、駅に向かうまでの道で、バッタリと沙羅ちゃんと……
男の人に会ったのよ」
「……それで、沙羅はなんて?」
震える声で俺が聞くと、姉貴はなぜか静かに首を横に振った。
「あたしのこと、気づかなかったみたい。
2人で1冊の本を見ながら、仲良さそうに歩いてたから――…」
姉貴のその言葉が……
俺の中で何度も何度もリピートされる。
開いたままのドアの向こうで、
リビングのテレビから流れる笑い声が、
虚しく響いていた。