プレシャス
カシャーンッ―…
それはホント
いきなりだった。
和やかなBGMを切り裂くようにいきなり響く乾いた金属音。
店内に鳴り響くその音にどのテーブルも会話を止められていた。
「やだ、なあに?」
まだ驚いたままの頼子と顔を見合わせて。
ゆっくりと振り返った先に
「すいません、トレイ落としてしまって」
カウンター越しに
深々と頭を下げる男の子が見えた。
「…あれ?あんな男の子いたっけ」
「…さぁ…?見たことない…」
普段
ここはいつ来てもマスター一人で切り盛りしてて。
アルバイトなんて見掛けたことなかった。
「ん~…ちょっと髪の毛ヤボったい?でもイケメンかも~」
「ちょっと…頼子っ」
「頼子~?」
「やあだ圭介、冗談よ」
遠巻きに見る分には黒髪にスラッとした長身。
うつむきがちなその姿からは、それくらいしかわからなかった