プレシャス






「あぁ、志穂ちゃん。ごめんね、驚かせて」








カウンターに顔を出すと。

一番に迎えてくれたのは、すでに顔馴染みなマスター。




さっきの騒動で飛び散ったグラスの破片を広い集めてた。








「マスター大丈夫?手伝おっか」


「ありがとね、でも志穂ちゃんがケガしたら困るし、大丈夫。」








手際よく片付ける姿を横目に、カウンター席に腰掛けると。


奥の方に
さっきの彼の姿が見えた。








「ねぇマスター?あの子…」


「あぁ、坂井?今日から来てんだ」



「ふぅん…?」









坂井君ねぇ…

さっきの…
彼には悪いけど
助かっちゃったや。



あの騒ぎのおかげでみんなの前で泣かずにいられた。


涙もあの音にビックリした拍子に引っ込んでくれたし


ホント
ありがとうな気分だよ







あんな場所で泣いたら頼子も圭介にも心配かけた。


大造なんてきっと

「だから言っただろ」

って、あきれてたかもしれない。







ただの偶然

だけど
楽しい空気をこれ以上壊さずにいられたのは

やっぱり…彼のおかげ。










「坂井、そっちはもういいよ」


「はい」







割れたガラスを袋にかき集めてゆっくり近付いてくる足跡。



目線をあげると
スラッとした背の高い男の子が見えた。






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