プレシャス
「…常連さん?」
そんな風に見上げてるあたしに降ってくる静かな声。
ハッとして目を合わすとためらいがちの笑顔が見えた。
「あ…うん」
「俺、今日からで、まだ慣れてなくて…これからよろしく」
照れ臭そうに笑う笑顔には小さなエクボ
マスターと話すのが楽しくて来てたけど、なんかもう一つ楽しみが増えたかも。
これは頼子にも報告しなきゃ。
「こちらこそ、じゃあまた」
ちょっと得した気分
そう思いながらカウンターを離れようとした
その時だった。
「涙…消えてて良かった」
不意に後ろから聞こえた
深みのある静かな声。
慌てて振り返った先には
まっすぐにあたしを見つめる
黒い瞳が見えた。