プレシャス
今…
…な…んて……
思いがけず届いた彼のひと言。
それ以上何か話すわけでもなく、ただ優しげにまっすぐあたしを見つめる彼の瞳に
あたしは瞬きさえ出来ないままだった。
「志穂ぉ~っ」
席の方から頼子の声が聞こえて。
我に返るように
慌てて戻るあたし。
でも
聞き間違いみたいな彼の声が
ずっと胸の鼓動を押し上げたままだった。
涙って…
もしかして
見られた…?
でもなんで
彼…?
おそるおそるカウンターの方に顔を向けると。
割れたグラスをいれた袋を片手に、裏の方へ下がる彼の背中が見えた。
カチャカチャと揺れる小さなビニール袋。
目に入った瞬間。
不意に1つの考えが頭をよぎった。