プレシャス
「はい、お待ちどうさま」
「あ、坂井く~ん」
「これ、マスターから」
「やったあ、マスターありがと~」
あの日から。
お店に来る度
ふとした瞬間、感じる視線。
「頼子、これだろ?」
「うん、好き~」
「じゃあ、俺これ…で、志穂は?」
差し入れのカクテルを受けとって笑うみんなを横目に
あたしとバッチリと目が合う坂井君。
いぶかしげに見上げてるあたしに涼しげな微笑みを向けて
「志穂さん、これでしょ?」
いつものお気に入りのカクテルを静かに置いてくれる。
「あ…ありがと」
「じゃあ、どうぞごゆっくり」
みんなに軽く一礼してカウンターに戻る後ろ姿に。
…やっぱり
気のせい…なのかなあ
でも…
なんて、
あれからずっと
心持ちモヤモヤしたままなあたし。
あの日からも
ずっと顔を出してる この店。
顔を合わせれば、何もないみたいに普通な坂井君に
何が飛び出すのかと構えてた分、なんとも言えない気持ちで落ち着かない。
見られるかもって
気にしてる時には感じないんだけど
でも、
不意に振り向いた時とかには…
…ほら、やっぱり…
…こんな風に
たいてい目があったりする。
ねぇ?
その視線
なんで…?