プレシャス
たぶん
きっと…
きっと
こんな日にお店に顔出したら
また坂井君には
泣きそうなのバレバレなんだろうな。
また
泣き出しそうになったら
今度はお皿でも割るのかな。
なんて…
慰めて欲しい訳じゃないのに
なのに
やっぱり…
「あ、志穂ちゃん。こんばんわ」
「こんばんわ。マスターいつもの作って?」
帰り際、今日もお店の扉を開いてしまうあたし。
だって…。
誰もいないあの部屋に一人でいるの…今日はたぶん
…キツそうだったから。
「珍しいね、今日は一人なんだ」
「あ…うん。頼子もみんなも課題だらけでね~。って、あたしもなんだけど」
「たまに息抜きも大切だからね」
カウンターに腰掛けて、ため息漏らしながらケータイを開く。
何も来てないって分かってるのに、開くまでの数秒間。
ちょっと期待しちゃ うこのクセ…
いつまでも消えなくてホント嫌になるや。
…もしかしたら
あたし
自分で自分を落ち込ませる天才かも?
毎日メールのやり取りしてる頼子ですらメール来ないって言ってるのに、
あの修が寄越すわけないじゃんね~。
「はぁ…」
コツンと
力一杯ため息つきながら、思わずテーブルに突っ伏するあたし。
そんなあたしの上から
「…お疲れだね、大丈夫?」
深くて静かな
あの声が降ってきた…