プレシャス
カチャカチャと。
丁寧にひとつづつ
グラスを磨きあげていく大きな手。
ゆっくりと顔を上げると目線に気が付いてか口元を微かに緩めた。
「あ…うん…試験前だから」
思えば
あたし
二人きりで話すの
…初めてかも
いつもは頼子が勝手に話して、あたしは横で二人の話を聞いてるだけだったから
「この時期はどこも大変だもんね」
目線をグラスに落としたままの坂井君。
なんか…
緊張
なんか
話さなくちゃ
「…あのっ…」
「はい?」
「こないだは…その…ありがと…」
あの日の…
やっぱり
何回考えても偶然には思えないし
みんながいる時じゃ言えないし。
でも
今さら過ぎてちょっと恥ずかしい
そう感じながら伏せた視線を戻すと。
あたしの言葉に手を止めず、グラスを磨く坂井君の涼しげな顔が見えた。